能楽鑑賞などなどの記録。  
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国立能楽堂7月定例公演  

 

狂言
八幡前
シテ 能村晶人
アド 野村万蔵
   山下浩一郎
   野村万禄

 

善知鳥
シテ 観世清和
ツレ 清水義也
子方 清水義久
ワキ 宝生欣哉
アイ 吉住講

 

大鼓 柿原弘和
小鼓 曽和正博
笛   一噌庸二

 

地頭 角寛次朗

 

※2017年7月5日(水) 国立能楽堂にて。
※狂言は時間の都合により拝見しておりません。

 

 

というわけで、キヨの「善知鳥」を観てきました〜!

イヤ〜、この日のキヨはホントすごかったです!久々の大爆発キヨでした!

 

で、まずは、出し置き的に、子方とツレ(シテ猟師の妻子)が舞台に現れます。彼らの登場はまだ先なので、存在しない態でワキ柱のあたりにそっと座る。子方がまだ小さくて、長袴で転ばないように用心して歩いているのが、よちよち・・という感じで可愛い。

 

続いて、ワキ僧・欣哉の登場。立山見物をしてから、陸奥にも向おうかという諸国一見の僧です。都見物にと地方から上京してくる僧というのは結構いるけれど、陸奥に行こうかという僧は、能では少数派かもしれない。

 

そして欣哉のハコビが大変美しく、地獄の風景にも擬せられる立山の山中で、「地獄に仏」とはまさにこのこと・・・と思わせる風姿です。

 

そこにやっぱり・・・、ということで前シテの登場。のうのう・・とワキ僧に声をかけ、呼び止める不思議な老人です。キヨは焦げ茶の水衣、質素な老人の出で立ちながら、謡の端々に抑えた力のみなぎるところが、只人ではない迫力を感じさせます。
(←ワキもこの後、ツレたちに「そのさま凄まじき老人の・・」と語るのでした。)

 

シテは頼んで曰く、昨年の秋に亡くなった猟師の家を訪ねて、その家にある蓑笠を猟師に手向けるよう伝えてほしい・・とのこと。

ワキ僧も戸惑い、それでは納得してもらえまい、と言うと、ではその猟師が亡くなる時まで着ていた着物の袖を・・と、なんとシテはみずからの着物の袖を、さらり破いて渡すのでした・・。

 

それを舞台から橋掛かりのほうまで、さらさらと歩みを進めて出向き、袖を受け取って、また山を下っていくワキ僧。余計なものがない動きが美しい。それを切なそうに見送るシテ・・。

 

シテが橋掛かりから一歩も出られず立ちつくし、ワキがテクテクと舞台を進み、その舞台の端にツレたちがじっとしている様子は、あの世とこの世の距離感というか、さなさがら地獄ロードマップでもある「立山曼荼羅」の光景を思わせます。ワキが里人のアイに、昨年亡くなった猟師の家はあるかと尋ね、やがて辿り着くその様子も、順序立ててあるところがよりそれらしい。

 

さて、猟師の家には、未だ悲嘆に暮れている妻子の姿があったのでした。ツレはドラマチックというか、ちょっと派手(?)な謡いぶり。いささか大味でしょうか。

 

ワキの話と、証拠にと渡された片袖が、亡き夫のものと気が付き・・・というあたりで、私もすごーく眠くなっていて、ちょっと朦朧・・。ともあれ、ワキが手向けの笠を正先に置き、猟師の弔いを始めるのでした・・。(←欣哉よ、ゴメン。。)

 

そしてここに、本来の姿となったシテの霊が現れる。黒頭に「蛙」の面で、死後もなおやつれ果てたような姿です。

 

ツレも驚きつつも、さぁお父さんよ、というように子方を立ち上がらせて、シテの前へと進ませるのですが、シテの罪障のために、我が子に触れようとすると、逆にその姿が見えなくなってしまうのです。子方はクリコの心配をよそに、上手にツツツっとシテの前から退いていきます。

 

「千代童が髪を掻き撫でて あら懐かしやと言わんとすれば・・」

 

と、ここで、それまで抑えられていたシテの感情が、いきなり爆発する。少なくとも今回は、そのように聴こえるキヨの強い謡いぶり。これはいくらなんでも理不尽なのではあるまいか、と、怒りさえ感じさせるそんな感じに。(ここでクリコも、バチっと目が覚めた。)

 

しかしこれも生前の報いかと、シテはがっくりとうなだれるように下居して、自分だって好きで殺生を営んできたわけではない。士農工商の家にも生まれず、琴碁書画を嗜むような身分にもなれず・・・と語る。

 

善知鳥という鳥は、親鳥が「うとう」と鳴けば、子が「やすかた」と答えるので、その習性を利用して狩りをするのです。こんふうに・・と、シテは「うとう」と呼び掛けるのですが、これが驚くのほどの長い息を使った大音声で、我が子を探して呼ぶようでもあり、地獄を自ら呼びよせているようでもあり。呆気にとられるような大迫力となっていました。

 

ここからはカケリとなって、その善知鳥の雛を狩る有り様を示すのですが、ここでもキヨ本来の強烈なまでの集中を感じさせる。ここか、あそこかと必死の態で探し回り、自分に手向けられたはずの黒笠の影を雛に見立て、エイッ!と捕まえると、前を向いたままシテが背後にビシッと投げ捨てた杖が、そのまま弘和に命中してました・・・。

 

弘和も勿論、平然と打ち続けていましたが(←偉い)、内心「あ〜っ!あ〜っ!びっくりした!御宗家、ひでぇ・・」とか思ってただろうなぁ・・。そんな暇ないか・・。

 

そう、殺生するのはつらい・・と言いつつ、いざ狩りに出てしまうと本能に突き動かされ、ただ目の前に獲物に熱中してしまう・・・という人間の罪深さが、実に端的に描かれる。「三卑賤」に共通したテーマでもあるし、この「善知鳥」という曲、お能の深さを感じさせます。

 

もちろん間接的にせよ(フムフムと、したり顔で観ている私自身も含め)、殺生に関わったことのない人間など、この世にはいないわけだけど。(乳幼児ぐらい?)

 

でも今回、なんともキヨらしい・・、と思わせたのは、シテが熱中すればするほど、むしろ孤独を感じさせて、ちっとも楽しそうではなかったところ。もちろん、シテの猟師はつい夢中になって善知鳥狩りをしているのですが、我を忘れているそんな猟師を、ちょっと醒めた目で見ているキヨ・・も同時に感じさせたのでした。

 

キヨがドライに演じていたという意味ではなく。シテが(おそらくは)物寂しい山奥で、雛鳥を捕まえている光景そのものに哀感があるというか。(おそらくそうでなければ、逆に猟師のあの必死さも表現できないのだと思う。)
 

舞台の進行も、地謡も囃子も激しく、そうとは気づかぬうちに嵐のただ中に、ただ一人立っているシテ、キヨ。を感じました・・・。親鳥は、我が子が捕まえられてしまったのを、血の涙を流しながら見守る。突然の血の雨に、シテは黒笠を頭の上に持ってこれを避けようとする。しかし本当の地獄に落ちてしまうと、その手向けも届かない。

 

キヨが橋掛りから舞台に向けて笠をびゅんと投げると、詞章の通り「かささぎ」の如く、くるるっとカーブを描いて、見事に子方の前に落ちる。

 

「善知鳥やすかたと見えしも 冥途にしては 化鳥となり・・・」、善知鳥が猟師に襲い掛かるのです。シテは銀の扇に持ち替え、キラキラとした光が、怪鳥の姿となった善知鳥の鋼の爪を思わせます。一転して、逃げ回るシテではなく激しく怒る鳥たちに視点が変わったような。そしてシテはただ、助けを求めながら成仏することなく消えていく・・・。なんとも暗いエンディング。

 

殺生そのものと、親子の絆を悪用するような残忍さが、終曲を救いの無いものにしているのかな?それとも殺されてた鳥たちの怒りそのものが、実はこの曲のテーマなのかもしれない・・。

 

 

posted by kuriko | 23:48 | 能・狂言 | comments(4) | trackbacks(0) |
コメント
クリコ様

レポありがとうございます!
友枝さんの「烏頭」と比べながら読みました。
今回、ワキの方が休演で代役、ツレと子方が中入後の登場(前場短いけど)とちょっとハプニングがありました。
>我を忘れているそんな猟師を、ちょっと醒めた目で見ているキヨ・・
友枝さんもそんな感じでした。「離見の見」というのでしょうか。役にのめり込まないで品位と品格を保つみたいな。
私の座席と舞台が近かったのもありますが、激しく動き回っている時より、普通に立ったり歩いたりしている時のほうが怖かったです。
あと、傘は投げませんでした。角に▼のように置く感じでした。投げると聞いていたので、ワクワクしていましたが、投げないの?ってなりました。ネットを探ってみますと、投げた公演もありましたので、何か事情か、思うところがあったのか…。
私はそんなにお能を観ていませんが、友枝さんの舞台はたくさん観たいと思います。おっしゃる通り、なかなかチケットが取れませんが( ; ; )
ちなみに、クリコさんがお好きな観世宗家も友枝さんラブ!ですよ〜。
2017/07/17 12:02 by あゆか
あゆかさま

コメントありがとうございます(^^)

御覧の通り、私、別に謡や型に詳しいわけでもありませんので、こんな感想もあるんだなと思って頂ければ(^^;)

笠を投げるのは、かなりケレン味がでて盛り上がりますよね。清和さんは見所に対してサービス精神というか、お気遣いされる方なので、わりとなんでも(?)投げます(^^;)
しかも運動神経がいいというか、コントロールも上手いんですよね〜(^^;)
「自然居士」のときは小袖も投げてました。清和さんの意外な一面です☆

友枝さんのその時の公演については分かりませんが、ケレン味は抜きにされたかったのかもしれませんね?

>クリコさんがお好きな観世宗家も友枝さんラブ!

ふふっ、そうだと思います。

そして、私の唯一の(?)特技、大妄言をここでご披露しましょう・・・。

キヨは、きっと心の奥底でこう思っているハズです。。。


「フッ・・・。ま、オレ様がナンバーワンだけどな!」

と・・・。


と、というのは、嘘です!!冗談です!!お、おほほほ!(^0^;)
2017/07/18 01:33 by くりこ
クリコ様

クリコさんのレポは、イマイチの時ははっきりそう書かれているのがいいと思います。
名前や肩書きに惑わされないのですね。私は割と惑わされます…。

>ケレン味
「烏頭」のような曲には必要ないといえばないですが、それだとただの暗い話ですね。実際、暗いですけど。

>オレ様がナンバーワンだけどな!
そこはせめて(観世流では)を付けましょうよ〜。
ですが、本来、宗家が芸の上でもナンバーワンであるべきでしょう。
友枝さんは流儀が違うので、手放しで絶賛出来るのでしょうね。
冗談にならなかったですね。すみません(汗)
2017/07/18 23:12 by あゆか
あゆかさま

>名前や肩書きに惑わされないのですね。

ウフフ☆(←気持ち悪くてすみません)、別にそんなこたぁ〜ありません(^^;)
芸能系は大体なんでもそうかと思いますが、特に古典の場合は観る人によって感動の内容も違ってくるのかな、と思います。

いわゆる「三卑賤」の話は、ストーリー的にはホント暗いですが(^^;)、お能はハマリ出すと、暗ければ暗いほど(?!)イイと思うこともありますよね(た、たぶん)。今後のお楽しみですね(^^)
2017/07/20 01:15 by くりこ
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