上村松園「青眉抄」
2008.08.01 Friday
狂人を見るのでしたら岩倉村へゆけばよいでしょうと、ある人がわたくしに教えてくれた。
京都の北の山奥岩倉村にある狂人病院は、関西のこの種の病院では一流である。狂人病院の一流というのは妙な言い方であるが、とにかく、岩倉の病院といえば有名なもので、東京では松沢病院、京都では岩倉病院と較び称される病院なのである。
岩倉へゆけば、狂人が見られるには違いないが、照日前のモデルになるようなお誂えむきの美狂人がいるかどうか―と案じていると、
「某家の令嬢で、あすこに静養している美しい方がモデルにふさわしいと思うが」
と、教えてくれる人もあったので、わたくしは幾日かを狂人相手に暮すべく、ある日岩倉村へ出かけて行った。
(本文「花筐と岩倉村」より)
クリコの手元にあるこの本自体は、新装版として1984年に出版されています。
初版は1943年とのこと。今では、青空文庫で結構読めるみたいです。
クリコも上村松園がわりと好きで、何ていうかごく普通に、ちょっと解説書とか読んでみたり、美術館でたまに眺める程度に好きである。
今年の秋にある観世喜正の会のチラシに、松園の「花がたみ」が使われているのを見て、ふと引用の文面を思い出したのでした。
松園が、謡曲を題材として何点か描いていることは有名で、これまた有名な話だけれど金剛巌の素人弟子として、お能のお稽古をしていたそうな。
彼女の『能楽観』は、現代人のクリコからみるとちょっと古風で面白い。
上品・清澄な理想?世界の美人画が最大の特色らしいのだけど、基礎の写生はもちろん、松園は画題に関して徹底的に研究する人で、引用のエッセイでも、実際に岩倉村まで行ったことが「根底の参考」になったと語っておられます。
ちなみクリコは松園作品では、「舞支度」「草紙洗小町」「母子」「蛍」あたりが好き。
そいだけ。