七騎落
シテ 野村四郎
ツレ 観世芳伸
坂井音晴
武田友志
木月宣行
坂口貴信
岡久広
子方 観世三郎太
ワキ 森常好
アイ 深田博治
大鼓 柿原弘和
小鼓 大倉源次郎
笛 一噌幸弘
地頭 角寛次朗
狂言
文蔵
シテ 野村萬斎
アド 野村万之介
井筒
シテ 観世清和
ワキ 宝生閑
アイ 石田幸雄
大鼓 亀井忠雄
小鼓 観世新九郎
笛 一噌庸二
地頭 谷村一太郎
仕舞
江野島 関根祥人
俊成忠度 寺井栄
玉鬘 坂井音重
鵜飼 観世恭秀
紅葉狩
シテ 武田尚浩
ツレ 坂井音隆
武田文志
野村昌司
ワキ 村瀬純
アイ 高野和憲
竹山悠樹
大鼓 高野彰
小鼓 幸信吾
笛 藤田次郎
太鼓 桜井均
地頭 坂井音重
七騎落。
四郎が情感のあふれ出る大熱演でした!
最初から全員直面で、頼朝主従がぞろぞろと出てくるのですが、若武者ふうから三郎太ちゃん(←遠平役)から、老人ふうまで、年齢層バラバラな感じが、いかにも落ち延びていく敗者の小所帯という雰囲気で、なんだか可笑しい。
船で逃げることになったのですが、八騎というのは不吉だから一人降ろせ、と頼朝が命じます。
困った実平四郎が、一番トシを取っている岡崎義実に降りてと頼んだところ、これが「やなこった」と拒否(笑)。揚句に「だったらオマエんとこの子おろせば。うちの子も死んでんだぞ」(←もっとお上品に)とまで言われ、泣く泣く三郎太ちゃんを降りさせることにするのでした。
三郎太ちゃんも、「イヤだ。頼朝さまのお役に立ちたいから」というのですが、ここで四郎が「親のいうことがきけんのか〜!!」ともの凄い剣幕で怒り、三郎太ちゃんは哀れ一人取り残されるのです。
あふれる思いを断ち切って、討ち死にしてこい、ときっぱりと三郎太に背を向ける四郎。
みんなさすがに可哀想になって、三郎太を船の上から見送るのですが、四郎は一人、我が子を振り返ることすらできません。そして、最後にそーっと陸のほうを振り返るのですが、もちろん直面の演技で、ここで表情を崩すのを観せるような観せないような、ギリギリのドラマティックな表現が素晴らしかった。実平の感情の激しい起伏が、四郎の全身からにじみ出るようでした。
そして、ツネツネ扮する和田義盛がカッコよく登場。
頼朝に加勢するというツネ2を最初は疑ってかかる四郎なのですが、彼の忠義も本物と見定めた頃、なんと切戸口からトコトコと三郎太ちゃんが。ツネツネが助けてくれていたのでした。
(ちなみに、クリコが初めて三郎太ちゃんを見たとき、彼はまだ切戸口サイズよりも小さかったのに、(烏帽子もあったので)頭をかがめて出てきた彼を見て、大きくなったな〜と感心したのでした。お顔が丸々としてすっごーく可愛いの。)
この時も喜びを隠し切れない実平。その後は、酒宴となって歓喜の男舞となります。
四郎が鋭い舞を観せてくれて、大団円なのでした。
ど〜でもいいけど、このお話で結局悪いのは、つまらないジンクスにこだわった頼朝だと思うんだけど。。。ハッピーエンドだったからよいのでしょうか・・。
続いて、萬斎さまの文蔵です!
キリキリとシャープに語る萬斎さまと、万之介のすっとぼけぶりが対照的で面白かったです♪
文蔵も重い語り物だそうですが、奈須与市語のように、語りながら扇をキラリキラリと鋭く扱うのが綺麗。
「源平盛衰記」の中の『石橋山合戦』について語っているそうなので、多分、先の「七騎落」にちなませているのですかね。。(「七騎落」は、頼朝が石橋山の合戦で破れたところから始まるのです。)
最後に万之介が「温糟(うんぞう)粥」と「文蔵」の聞き間違えただけという、ダジャレで終るのですが、ご主人サマがそれほど怒ってなかったのは、自分の博識を自慢できて嬉しかったのかもしれません・・・。
萬斎さまのお声が堪能できました♪
そして〜、井筒です!!
いやはや、これも美しかったです!
そして率直な印象を言って、とにかくキヨ節全開だったな。と、思われたのでした。
閑が例によって、スタスタと、ふらふらと、漂泊の態で現れる。
これから初瀬(長谷寺)へお参りする途中とのこと。もちろん閑が登場する前に、薄の一叢があしらわれた井戸の作り物が正先に出ていて、それを眺めながら閑が語るわけですが、なんとなく随分と寂しい光景だな、と思う。薄は活け花のように美しく、均整をとって立てられていて、それが逆に空虚な背景を際立たせるようでもある。
伊勢物語の中の二人の跡を弔おうというのだから、閑も架空の人物なのか、それとも現世(?)の人物なのか。
そして、井筒の女が現れる。
暁毎の閼伽の水。あかつき毎乃閼伽の水・・と次第を謡うキヨの声が非常に冴え渡っていて、今日の井筒はこれで決まった〜!と思った。
しかし慎み深い(?)お能のシテは、自ら現れても、「私がその紀有常の娘です」なんて容易には語らない。それは何故だかわからないけれど、とても危険なことなのだ。幼馴染の初恋から結ばれた二人が、色々と夫婦の危機も乗り越えたりしつつ、でも結局、彼女はそこで業平を待っている。危険な香りがする・・、と今日のキヨは教えてくれる。
幸雄のアイ語りを、半分うとうとしながら聴いていて、はた。と気がつくと、後シテの登場。
井筒の女が、業平の形見を身にまとって橋掛りを進んでいた。業平乃。形見の直衣。身にふれて恥ずかしや・・なんて自分で言っている。とてもセクシーな表現なのですね。危険な香りがするのは、この辺りかもしれない。
先日もキヨの「松風」を観たけれど、物着をして、さぁ形見を身にまとうのだ、という意識も超えている分、こちらのほうが先鋭的に倒錯(笑)具合が増しているのかも。井筒の女は、業平自身を身に着けて、一体となって出てくるのだから。
もちろん、キヨの舞はすっぱりとクールだった。それが、情念が地獄の炎に炙られてダイヤモンドのように結晶化したクールさではなくて、はじめからそうしたものは捨て去ることによってクールであることを選んだような、鋭利さと美しさである。そこが私がキヨを愛好する理由でもある。キヨはいつも大変で、キヨがこの一番に全力を傾けているのが分かる。でも、シテが井戸の中を覗き込んで、何を見たのだろう?キヨは、とても綺麗に井戸の底を覗き込んでいた。見ればなつかしや。
ただ綺麗に覗くことも大切なんです。・・・と言っているように思ったのは、単なるクリコの妄想です。
今日は忠雄と新九郎も、なんだかとてもよかった。
紅葉狩も面白かったです!
東大薪能では(←ビデオで見た)、キヨは大口を着たりしていましたが、今日は全員着流し。これから紅葉狩をしようというのに、どことなく物寂しげなのが意味深長です。
シテが来合わせた維茂に声をかけるところ、いかにもしっとりと誘惑しているようで、維茂も思わず『イヤ〜綺麗なヒトだな〜っ』と扇ばたばた!させちゃう感じが面白かったです。
シテの中之舞もとても綺麗だったのだけど、彼女が鬼の心を隠し持っているのが分かって、ヒヤリとさせられる。外見とは裏腹な心を表すのが面白いのですね。
やがて寝入ってしまった維茂の、上げたままの左手がぷるぷると震えだしたころ、心配して八幡宮の末社の神が起こしてくれるのでした。
そのあとは〜、オニと維茂の大格闘!もちろん、正義は勝つ!ということで、維茂の勝利で終ります。
はぁ〜、今日もなんだか贅沢な会でしたお〜。
素晴らしかったです。