俊寛
シテ 観世清和
ツレ 藤波重彦
野村昌司
ワキ 福王和幸
アイ 高部恭史
大鼓 國川純
小鼓 大倉源次郎
笛 寺井宏明
地頭 坂井音重
狂言
文山賊
シテ 野村万蔵
アド 野村扇丞
葛城 大和舞
シテ 梅若玄祥
ワキ 殿田謙吉
アイ 野村扇丞
大鼓 亀井忠雄
小鼓 亀井俊一
笛 一噌庸二
太鼓 金春國和
地頭 角寛次朗
仕舞
和布刈 木原康之
佛原 谷村一太郎
富士太鼓 武田志房
融 観世芳伸
熊坂 替之形
シテ 武田尚浩
ワキ 梅村昌功
アイ 山下浩一郎
大鼓 佃良勝
小鼓 森澤勇司
笛 藤田次郎
太鼓 徳田宗久
地頭 岡久広
※2012年12月4日(日) 観世能楽堂にて。
この日も、びっくりするほどの盛況でした。ロビーは激コミ。
さすがキヨ(と玄祥と尚浩)人気ですな♪
俊寛。
もちろん能楽講座のおかげで、予習はばっちし!(のつもり。)だったのだけど、ワキの赦免使が、美形ワキの福王和幸だったので、アレっと思う。勝手にツネ2かと思っていたので。でも和幸もこういう冷たい役には、ハマリ役でヨイですね。(←どういう意味だ。)それにしてもこのヒト、いわゆる八頭身なのではあるまいか。関係ないところで感心するクリコであった。
ちなみにアイの子が、ばっちり今ドキ風の髪型のまま出演していたのには、ちょっと笑ってしまった。
そんなことはさておき、ワキは鬼界ガ島の流人たちに、中宮御産のため恩赦が出た、という。これから行ってきます!とのこと。実は観客は、この時点で俊寛の運命を知っていたわけやね。
ワキがアイとともに一度引っ込むと、そんなことをまだ知るよしもない康頼(重彦)と成経(昌司)が登場。
二人とも貴族なのに腰蓑を着けたりしていて、苦労のほどがしのばれます。せめて熊野権現を勧請して、熊野参詣に擬して祈ろうとのこと。
と、そこにキヨの登場です!
黒頭に俊寛の専用面を着け(ロビーに掲示があった)、黒っぽい水衣に、海松布の腰蓑をつけている。(←この腰蓑は、乾燥ワカメと同じだから食べられる!とキヨが講座で言っていた。)絶望的な気持ちを語る、渋い声。
でもキヨが演じる役は、いつもどこか若々しく品の良さがある。姿勢がよく、声に力があるからであろうか。
俊寛は参詣ごっこには参加せず、熊野参詣といえば、道迎えでショ?と二人に水桶を差し出します。
この島に酒なんてあるのか、と思わず桶を覗き込んだ康頼が、すぐに「や、これは水なり」と言うのだけど、香りの無さで逆に分かったのかもしれない。(あるいは、日本酒は江戸時代ぐらいまではみんな濁り酒だったという話を、何かの本で読んでような気がするのだけど・・。)
とにかく、仕方なく男三人、わびしく絶海の孤島で水で酒盛りを始めるのでした。
そこに、ついに和幸たちが舟に乗ってやってくる。
恩赦の言葉に、てっきり自分も帰れる!と大喜びの俊寛。「あら、ありがたや候」なんて赦免状を受け取ると、余裕を見せて自分より若輩の康頼に読めなどという。確かにこのほうが、このあとのどんでん返しがよりドラマチックですね。自分の名前が無いことに、愕然とする俊寛。赦免状に穴が開くほど見つめても、無いものは無い。
さては筆者のあやまりか。
俊寛が自分の運命を知るこの見せ場も、怒りと動揺の入り混じった一言に、キヨらしい端正さが残してあって、ちょっと新劇っぽい香りがして大変よかった。
いや、ミスじゃないよ。と、知ったことではないという感じの和幸。茫然とする俊寛。
思わず舟に乗り込む康頼の袖にすがりついて、情けがあるならせめて向こうの陸地に連れて行ってくれと頼み込む。もう恥も外聞もあったものじゃありません。
しかし和幸はさらに冷たく、僧都は乗るなと言い、舟子たちにも追い払われる。憔悴しつつ、今度は艫綱を必死に掴むのだけど、これもなんとワキがビシっと切ってしまう!
・・のだけど、ここはさすがに能楽講座でのキヨとツネ2ほどには、イキもぴったんこ♪とはいかず、和幸が艫綱を切ったうえに、シテに向かって投げつけるという余計なことをしたために(←福王流ではそれがフツウ?なのだろうケド)、キヨは一瞬『エエーッ!和幸ーッ!』と綱を見失いそうになりながらも(注:単なる憶測です)、エイッ!と地謡たちのほうに大きく綱を投げてドラマチックな演出をしてみせたのだった。
舟の上の人々と浜辺の俊寛の気持ちは、まさに天国と地獄ほどの差であろうか。都に戻ったら、よく言っておくから、とかなんとか適当な(?!)ことをみんな言いつつ去っていく。キヨ俊寛は、もう泣くのはやめて波に洗われつつ、いつまでもそれを見送る。端然とした姿が、胸に刺さるように印象深く残るのでした。。。
ちなみに最後に後見の宗和が、舞台に落ちたキヨの腰蓑のカケラを、丁寧に拾い集めていました。
ミルメの腰蓑を使うと、カケラがいっぱい落ちて大変なんですよネ、とキヨがこれも講座で言っていたけど、本当なんだなと思ったことでした。
葛城。
葛城はクリコが最も好む曲の一つで、葛城が出ると冬だなぁという気がする。
今回は大和舞の小書がついていて(大和舞の小書のない葛城というのも、あまり観たことがないカモ)、雪綿を被り、真っ白な引き廻しの作り物が出る。シテの扮装も前シテは雪の積もった笠を被り、玄祥なので白練の壺折ではなく白い水衣(みたいなの)に、柴を背負った白一色の出で立ち。
雪に降り込められて困っているとのケンたち一行に、親切に声をかける玄祥なのであった。
しかし玄祥の声は、体格と同じにふくよかさと深さがあって、たしか「鉢木」のときにも同じようなことを言ったような気がするけど、こうした悩めるシテ系にはあまり向かない気がする。(お能に苦悩していないシテというのも、あまりいないケド。。。)
とにかく大雪の日に暖かな火で客人たちをもてなしつつ、私、悩んでるんですよね・・と打ち明ける。とのケンたちも、これにはびっくりである。実は役の行者の言いつけに逆らったものですから・・とのこと。神さまとはいえ、自分の醜い顔をさらすのがイヤだったとは、お仕事(?)よりも自意識を優先するあたり、なんだか現代人的な気がする。
消えてしまったシテを待ち受けて、待謡を謡うとのケンの声が、本物の僧侶のように品位があって素晴らしい。
と、呑気なことを観客は思うのだけれど、玄祥の巨体が作り物の中でお着替えするわけで、後見は大変だったことでありましょう。ちなみに脇正面から観ていたクリコの知り合いが、「四郎先生の活躍が、すごかった・・」と言っていて、さすが四郎。仕事のデキる男やね。(←野村四郎と寺井栄が後見だった。)
真っ白な引き回しを後見がゆっくりと降ろすと、悩める神がその姿を現した。それでも祈祷のおかげで縛めは解かれ、喜びつつ神楽を舞う。
赤い紅入の表着に深緑色の大口、天冠の蔦紅葉はとってもボリューミーで、遠くから観るとクリスマスツリーっぽく観えなくもない。面は増だろうか。
神楽は、冬の夜だけに感じる特別な温もりに満ちていた。卑近な例で恐縮だけど、雪の日に入る炬燵(←?)のような感じだ。もうちょっと洒落た感じに言うと、暖炉の火だ。ちょっと不安定な感じの囃子が、神寂びた趣に聴こえる。
女神は段々と遠ざかっていく。思わず進み出て、礼拝する山伏たちなのでした。
熊坂。
実は今まで黙っていたけれど(←黙っていたのか?)、武田尚浩って、謡が上手いのでクリコは結構お気に入りである。
前シテは僧形の直面で現れて、謡といい顔立ちといい、遠目だとちょっぴし祥人を思い出した。
ほんのちょっぴりだけど。
この曲の面白いところは、前シテがまるでワキのドッペルゲンガーのように、そっくり同じ姿で現れる点ではあるまいか。舞台にワキの旅僧と二人並んで、一瞬、あれっと混乱させられる。しかも僧が僧に、命日を弔ってくれと頼むのであった。
シテの庵には何故か武具ばかりがあり、このあたりは物騒ですからね、強盗などもいて・・と思わせぶりなことを言う。もしかすると、本当に罪滅ぼしに活躍しているのかもしれない。
しかし気がつけば、ワキは狐にばかされたかのように、野原に佇んでいる。
もちろん後シテの熊坂長範が現れて、最後の戦いの有り様を示すのだけど、死んでなお牛若丸の幻に悩まされているとは、ちょっと可哀想である。一人ぼっちで激しい戦いを続ける長範。
・・・もう眠いので、これでお仕舞い・・・。
そういえば、この日は三番とも地謡が素晴らしかったけれど、とくにこの熊坂には、めいっぱい感があってよかった気がした。。