頼政
シテ 清水寛二
ワキ 工藤和哉
アイ 高野和憲
大鼓 亀井広忠
小鼓 幸正昭
笛 一噌隆之
地頭 浅見真州
狂言
酢薑
シテ 野村萬斎
アド 深田博治
安達原 白頭
シテ 小早川修
ワキ 御厨誠吾
ワキツレ 大日方寛
アイ 竹山悠樹
大鼓 佃良勝
小鼓 鳥山直也
笛 八反田智子
太鼓 小寺眞佐人
地頭 西村高夫
※2016年12月9日(金) 宝生能楽堂にて。
というわけで、今年最後の銕仙会に行ってきましたぁ〜!
まずは、しみかんの「頼政」から!
いや〜これがですね・・・、しみかんが前シテからひじょ〜うにカッコよくキマっていて、おお、これはいい感じだ・・と思っていたら、中入のあたりから、(ほぼ)熟睡。。。
しみかん。。。ごめん。。。
実はこれで、2016年の観能納めでもあるので、意気込んで行ったんですけどね・・。
いちおう。。
どうにもスイミン不足で申し訳もなく。。。もう眠くて眠くて。最後にシテが、目付のほうに扇をさっと投げた時に、その扇が勢い余って白洲にまで落ちて行ったのが、なんだか印象的でした。
それに前シテが芯のある強い声で、しみかん、ヨワヨワちゃんになっちゃってるかな?と思っていたらそんなこともなくてよかったです。
続いて、狂言「酢薑」。(←このあたりから起きた。)
最初に登場した深タンは、薑(はじかみ=生姜)売りとのことでで、肩衣、袴も全体にオレンジがかった辛子色。細い竹竿の先に、薑を吊り下げているようですが、遠目にはレンコンに観えました(笑)。
一方で、酢売りの萬斎さまは、深緑の肩衣に水色の袴で、全体に青系統にまとめてあって、対照的な二人のキャラが際立ちます。それにもうすっかり髪も戻っていて、いつもの萬斎さまです。
と言っても、結局ダジャレ合戦になる「酢薑」ですが、この曲はダジャレの内容が分かりやすくていいと思う。「ギャグ」だとその時代の習俗が分かってないと、けっこう厳しくなっちゃうし・・・?
最後に笑いをぴたっとやめて、スタスタと去っていくところがシュールでした。
そして、「安達原」。このあたりでようやくアタマもスッキリとしてきて(←。。。)、しかも非常に良い舞台で、2016年の銕仙会の掉尾を飾るに、ふさわしい出来映えだったのではないでしょうか。
この日のワキとワキツレも、強さとワイルドさの両方を感じさせる非常に素晴らしい山伏ぶり。みくりーは、閑というより欣哉に芸ふうが似てきたかのような雰囲気でした。
観世流の大成版と比べると、下宝のワキ(とワキツレ)は、けっこう強気というか(笑)、シテに対して「聖」(山伏)優位な考え方だったのかもしれません。
そしてピタリと扉の閉められた、「萩小屋」の作り物から聴こえてくる、シテの声。うらぶれた孤独な身の上を嘆くものだったのですが、端正で品の良さも感じさせるものでした。決してヨヨヨ。。悲嘆に溺れるような謡にはなりません。
荒野で見つけた一軒家に、宿を乞う山伏二人。必死で頼みこむ様子に、薄暗いあたりの気配が伝わってくるようです。この懸命さに、思わず立ち上がって扉を開けてしまうシテ・・・。
今にして思えば、こうして心を開いてしまったのが全ての失敗だった・・と思わせる象徴的な場面です。扉の閉ざされた萩小屋は、荒野に佇む鬼女の棲家、シテの心の内、秘密の隠された閨への入り口・・と目まぐるしくその役割を変えて行きます。
シテは、白髪に、濃い紫の唐織の上には水色の縒水衣と、どこかに残った品の良さのある老女姿で、その質素な暮らしぶりも伝わってくる。
一軒家の室内で、ワキがふと目を留めた糸車のことを、あれは何かと尋ねられ、枠桛輪・・と答えると、何故かワキツレがそれは今夜のおもてなしに是非やってみせてくれ、などときっぱり言う。
ちょっと居丈高な感じもあったのですが、「おもてなしに・・」という言葉がでたのは、つまり、「摂待せよ」という意味も含まれていたのですかね??聖をもてなすことで、お前の功徳も積めるのだぞよ、という意味だったのかもしれません。
枠桛輪を上手に操るのは、結構難しいものらしい。シテは淡々と、しかし巧みに糸を繰っていた。枠桛輪の糸は、やはり降り積もるシテの業の象徴なのでしょうか。
糸を繰りながら我が身を振り返るうちに、シテは感極まるとそれを絶ち切って、ここで今夜は冷えるので、焚き木を取ってきましょう・・と言う。ここで、ふと気が付いたように、「や」と声を上げるのですが、こういう思わず出てしまった声というのは、ウデの見せ所、聴かせ所とでもいうか、お腹の底から「やああぁぁぁ」と響く声でした。
そして例の作り物の扉に向かって、あの閨の中は決して覗いてくれるなと、旅人に告げるシテ。ワキはもちろん、「オレはそんな人間じゃないゼ!」と力強く答えていたのですが・・。ワキツレにも念を押し、橋掛りに出てからも、なおも振り返る老女の姿。緊迫感の漲る演技が素晴らしかった。
ここで、謹厳なワキたちとは違う行動を取るのがアイの役割。「道成寺」でも「望月」でも、キャラクターの光るアイがいて話が進む。文字通りの狂言回し、そしてトリックスターとしての片鱗が光ります。
なんとか閨を覗こうとして、アイがワキに見つかる度に、カワイく「きゃ〜っ!コワイ夢を見てました!」と誤魔化すのがカワイイのだけど、最後の「ぎゃーっ」は本物。見てしまうのですね、閨の中の死体の山を・・・。報告を聞いて、思わず見てしまった光景に、ワキたちの背中にも戦慄が走ります。
そして、白頭のシテが、幕が上がって一度ぱっと出てくると、おっとフライング!みたいな感じでまた、引っ込む。いわゆる急進之出で、柴を背負ったシテが、大急ぎで戻ってこようとしているのが感じられます。
後シテは鬼女とはいえ、真っ白な髪が美しいほどで、シックな色合いの唐織も脱ぎ下げとはいえ品の良ささえ漂います。「般若」の面の顔色が、仮髪の影となったり、白くなったりと、目まぐるしく変っていく様も面白い。ちょっと「山姥」も思わせる姿です。
それに、鬼女の姿をなってからは珍しく、シテ自身が発するハッキリとした台詞もあって、そこはやはり人間が化けた鬼・・なのかもしれない。前シテとはまた違う、怒りのためにドスの利いた恐ろしい声で、シテの演じ分けも素晴らしい。地謡も非常に力強くてよかった。
山伏たちも喰われてたまるかと、必死で祈り、シテが最後に作り物の扉を背に、追い詰められても、それでも秘密を守りたい・・と踏んばる様子が哀れを誘いました。
鬼はやがて闇の中へと消えていきます。だん!と橋掛かりの床を鳴らすと、ぱっと幕が上がって、シテの姿はさっと消える。
・・・。
ええと、すみません、これから少しの間ですが日本を留守にすることもあり、年内はもう、更新するかもしれないし・・・、しないかもしれないし・・という感じです。ずっと更新しないままだったら、死んだんだな。。ぐらいに思ってください☆それでは!